小型木製納骨五輪塔
●なぜ冬木沢に五輪塔を納めるの？
会津地方には、大塚山古墳などの古代豪族のお墓や、中世の貴族、僧侶のお墓などが残っています。そういった特別な人のお墓とは別に、普通の庶民、つまりわたくしたちの祖先は、いつごろからお墓を建てられるようになったのでしょうか。
会津の村々の共同墓地や、村内にあるお寺の墓地をつぶさに見てみると、江戸時代初期以前の墓を見ることはまれなことに気づきます。地方にもよりますが、有力者のものを除くと、土葬地の上に戒名を刻んだ石塔を建てる例が増えるのは、江戸時代中期ごろの貞享･元禄年間（1688～1703）くらい、今から300年ほど前からになってくるようです。 八葉寺の五輪塔は、昭和46年から東北大学による学術調査がおこなわれ、昭和56年に、国の重要有形民俗文化財の指定を受けました。そのときの調査によれば、庶民が墓石を建て始める貞享･元禄のころよりおよそ100年前、まだ豊臣家の天下だったころの文禄4年（1595）の奉納例が最古として確認されました。
想像すると、戦国時代末期のその頃、世の中がすこしずつ豊かになってはきたものの、まだ有力者のように石塔を建てるにはいたらない多くの人々に、五輪塔を納めて故人を供養することを提案したのかもしれません。その意義は、祖霊の集まる冬木沢に、遺骨の一部や、爪、髪、歯などを中に納めた五輪塔や宝篋印塔を、小型のお墓としてお納めして供養するというものだったと思います。
冬木沢は会津高野山と呼ばれます。本家である和歌山県の高野山でも、弘法大師のおわす奥之院周辺に死者供養のための五輪塔が膨大に納められています。その影響もあったと想像されます。小さなお墓を祖霊の集まる聖地に納めるという行為は、遺族が個人の後生安楽を心から願ったところに由来するのでしょう。
●五輪塔の意味
五輪塔には、かたちそのものに深い意味があります。五輪塔にはインド古代の五大思想による宇宙のシンボルという意味と、「成仏した」と顕彰する意味が、同時にあらわされていると考えられています。現在でも五輪塔が墓石のデザインの一つとして人気があるのは、そのような深い意味が背景にあるからです。いっぽう、江戸時代中期ごろから多くなる竿石一般のお墓は、位牌を模したものでシンプルなデザインです。
さて、五輪塔とはその名の通り、五つの部位でできています。この五つの部位を五大と呼びます。五大とは、わたくしたちを含む宇宙全体を構成する五つの要素のことで、下から、地（ち）･水（すい）･火（か）･風（ふう）･空（くう）と定められています。この五大にはそれぞれシンボルとして色とかたちと梵字が定められていて、これを下から順にかさねると、宇宙を構成するすべての要素が揃って一体になっているということで、宇宙全体をあらわすシンボルとなります。宇宙全体であるということは、それがそのまま仏さまのシンボルとなります。やや難解な論理ですが、仏教では、仏さまはこの世の中に、いつでも、どこにでも遍満していらっしゃると考えています。だからこそ宇宙全体は仏さま、仏さまは宇宙全体と考えて、宇宙全体をあらわす五輪塔は仏さまに等しいとみなしてきたのです。
図のなかで、五輪塔と座禅を組んだ仏さまが重なっているのは、そのことを端的にあらわしています。ふつう仏さまは仏像というかたちで表現されますが、それを象徴的にシンボルであらわしたのが五輪塔だといえます。
総じていえば、五輪塔は、お亡くなりになった大事な方が仏さまと一体となった、すなわち「お亡くなりになったあと成仏して仏さまになった」ということのシンボルとして建立されたのです。
興教大師覚鑁上人著
『五輪九字明秘密釈』より
●自作してみよう
八葉寺では、大切な方のご冥福のために五輪塔を自作できるキットを用意しています。あらかじめ大まかなかたちまで作ってあるので、あとは細部の仕上げをしていただくだけにしてあります。私が実際に彫ってみたところ、小刀と彫刻刀のみで2週間、電動彫刻刀を用いても2日ほどかかりました。余裕をもってご計画ください。
彫りかたが終わったら、説明書の通りに彩色して下さい。地輪（最下の直方体）の中にご遺骨の一部、または遺髪や遺爪を納め、上部をかぶせ、おうちの仏壇にお祀りして、新盆の年の冬木沢詣りまで待ちます。ただしまだ地輪と上部の接着はしないでください。
8月になるのを待って、冬木沢詣りにおいでになり、本堂でその旨をお知らせくだされば、梵字を書き入れ、御戒名や御法名を書き、施主名等、必要なことを書き入れた後、中身を確認して接着し、当寺の過去帳にも記載して、ねんごろにご供養申し上げます。 お詣りの期間が終了したのちは、阿弥陀堂に安置いたします。自作ではなく当寺であらかじめご用意した五輪塔は白木ですので、時がたっても、ご自作の五輪塔を容易に見つけられることでしょう。
※冬木沢へ納骨する目的以外の方には、お分けできません。©田中印刷
